January 16, 2005

サッカーと祖国

「ディナモ—ナチスに消されたフットボーラー」を読了。
朝日新聞の読書欄評者による
「2004年の3冊」みたいな特集で
何人かがすすめていたと思う。

ナチス・ドイツのソ連侵攻時に
「ソ連のパン籠」と呼ばれたという肥沃な地帯
ウクライナの都市、キエフでの”奇跡と絶望”の物語だ。

ヒトラーはウクライナ人の”民族殲滅”を
命令していたのだという。
そのため、ドイツ軍のキエフ統治は
あまりにも過酷だったらしい。

爆破などの抵抗運動が
ひとつ起こると100人殺したとか、
収容所では意味なく3人に1人殺したとか、
けっきょく全部殺すつもりだから容赦がない。

その絶望的状況の中で奇跡的なことに、
パン工場を経営する男が
かつてのディナモ・キエフを中心に
FCスタートというサッカーチームを作る。
そして、市民懐柔策のために試合を許される。

ドイツの息のかかった
共産主義に敵対する民族主義者のチームから
ドイツ人のチームまですべてを破っていく。
その中で彼らはナチスに対する抵抗の象徴となっていく。

スターリングラードの戦いで行く手を阻まれ
次第に戦況が不利になっていくナチス・ドイツと
反攻していく祖国の希望をサッカーに託す観衆の
勢いの交差する姿が第2次世界大戦の推移を
リアルに物語っている。

この本のクライマックスは、
一度破ったドイツ・チームとの再戦に際して
「ハイル・ヒットラー」とナチス式挨拶を強要されるシーンだ。
もちろん彼らは、意外な形で拒否するが、
実際にはどのようにしたのか、
また、その後の彼らのさらに苛烈な運命については
ぜひこの本を読んで確かめてもらいたい。

「死の試合」として伝説化されていた試合の
真実の姿にできるだけ迫った力作といえるだろう。
この本を読んだら、
「ディナモ・フットボール—国家権力とロシア・東欧のサッカー」
も読みたいところ。
(僕もまだ読んでいませんが・・・)

それにしても、
大粛正で評判の悪いスターリンとナチス・ドイツでは
”究極の選択”なのかもしれない。
どっちが正義なのか?
”民族殲滅”よりは”粛正”の方がましだった
というところだろうか。

いまのイラクの情勢も立場を変えれば
別の見え方になるのだろうか?

[Books&Magazines] Posted by tokuo
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