June 24, 2006

よく生き、よく死ぬために

「モンテーニュ私記」を読了。

かつて、
岩波文庫版「エセー」を読みふけったことがあった。
古典を引用しながら、
人生の各側面に思いを巡らせる
そのゆったりとしたリズムが気持ちよい。

   「私の仕事と私の技術、それは生きることだ」

   「私はほかの主題よりいっそう私を研究する。
   これが私の形而上学であり、自然学である」

「よく生き、よく死ぬために」を
副題にしたこの「私記」は、
モンテーニュの言葉や
彼が引用した文章を紹介しながら、
著者の保苅瑞穂氏が10年以上をかけて
思いを巡らせた軌跡を描いている。
いわば、
本の構造が入れ子になっているのだ。

そのために、
まるでモンテーニュが
自分の「エセー」を題材に「新エセー」を書いたかのような
ゆったりとしたトーンが生まれている。
だから、読むのにもけっこう時間がかかる。
ぼくも、ちょっとずつ読み進めて
3年かかってしまった。

この本の白眉は、
著者が
「『エセー』のなかでもっとも心を惹かれる文章の一つ」
という一節を引いて、
「よく死ぬ」ことについて書いている
「VII 変化の相のもとに」だろう。

   「世界は、永遠の動揺にほかならない。
   そこではすべてのものが絶えず動いている。
   大地も、コーカサスの岩山も、エジプトのピラミッドも
   全体の動揺とそれ自身の動揺とで動いている。
   恒常でさえも、より緩慢な動揺にすぎない」

   「死は生に劣らず、
   われわれの存在の本質的な部分なのである。
   ・・・死は、自然が生み出すものの継続と変遷を
   育てるのに非常に有益な地位を占めていて、
   この宇宙のなかで破滅や滅亡により、
   誕生と増殖にいっそう役立っているのだから」

   「一つの生命の喪失は、
   ほかの千の生命への移行なのである」

くしくも、
以前のエントリーでも触れた
スティーブ・ジョブスのスピーチの中の
一節によく似ている。

   「何故と言うなら、
   死はおそらく生が生んだ唯一無比の、最高の発明品だからです。
   それは生のチェンジエージェント、
   要するに古きものを一掃して
   新しきものに道筋を作っていく働きのあるものなんです」

宗教戦争の激動の時代に生き、
その中で落ち着きのある思索を
巡らせることができたモンテーニュ。
彼にならって、たまにはゆっくりと
人生を考えてみたいという人に、
この本をお薦めする。

[Books&Magazines] Posted by tokuo | TrackBack
Comments
Post a comment









Remember personal info?