September 15, 2005

下山事件の真相と深層

柴田哲孝「下山事件—最後の証言」を読了。

オウムを描いたキュメンタリー映画「A」で知られる
森達也の「下山事件」も面白かったが、
真相解明という意味ではモヤモヤしたものが残った。

この「最後の証言」は、
その森達也が依拠した”最後の証言者”が
自分で書いた本だ。
だから、よりはっきりと
下山事件の裏側が描かれている。

平成3年に著者は、
大叔母から聞いたひとことから
祖父が勤めていた”亜細亜産業”が
下山事件に深く関わっていたことを知ることになる。

「私の祖父は実行犯なのか?」
という疑問に導かれて
大叔父や母親、
そしてその周辺の人たちを取材していくうちに
最も深く事情を知っていると思われる男に遭遇する。

なんといってもそのシーンが白眉。
その男、矢板玄の話がめっぽう面白い。

著者が彼の話のウラをとっていく中には、
さまざまな要素が絡んでくる。
張作霖爆殺事件、満州事変、満鉄、引き揚げ船、
昭電疑獄、三鷹・松川事件・・・。
岸信介、佐藤栄作、吉田茂、白州次郎、児玉誉志夫・・・。

戦前から戦後の日本を動かしてきた
大きな力の源流、または深層海流を
俯瞰してみることができたような気になる。

とくに、白州次郎の印象が一変した。
新潮文庫で出ている「風の男 白洲次郎」
描く白州次郎とはかなり違う。
最近出て話題の
「白洲次郎 占領を背負った男」も読んでみたい。

ちなみに、
他の”下山事件本”の要約みたいな面もあるので、
下山事件全体の知識を得るためにも
格好の本だと言えると思う。
必読。

しかし、
著者が森達也の”証言捏造”を暴露し、
その森達也が、
途中まで一緒に取材していた週刊朝日記者・諸永 裕司が
「葬られた夏—追跡・下山事件」という本を
森に先んじて書いててしまった
”裏切り”を非難しているのをみると、
この事件の魔力に取り憑かれることの
恐ろしさを感じる。

[Books&Magazines] Posted by tokuo | TrackBack
Comments
Post a comment









Remember personal info?